再委託できる?できない?業務委託契約のポイント


180320

個人情報の取扱について、委託元(日本年金機構)との契約に違反し中国の会社に委託(再委託)したという事件がニュースになっています。
(「年金の個人情報、中国の業者に渡し入力を再委託 」 Yahoo!ニュース 2018年3月19日(月) 21:30配信 )

故意に契約違反するのはもちろんダメですが、「再委託」(下請負)が必要となるケースは業務委託契約において少なくないこともまた事実ではないでしょうか。

《広告》

そこで、業務委託契約において再委託をどのように取り決めるのかを考えてみたいと思います。

契約類型は2種類

まず、「業務委託契約」といっても、法的には大きく分けて2種類の類型が考えられます。

1つは、「請負」。

民法632条で規定されているもので、受託側が仕事の完成を約束し、その仕事の結果に対して委託側が対価を支払う、というものです。
建物や製品の製造や、ホームページ制作などがこの「請負」に該当します。

もう1つは、「委任(準委任)」。

民法643条で規定されており、委託側が受託側に対して法律行為を処理することを依頼するものです。
法律行為を処理するのが「委任」、それ以外の事務処理を行うのが「準委任」となりますが、法的には準委任に対しても委任の規定が適用されるため(民法656条)、権利や義務については同じと考えても問題ありません。
コンサルティングやコールセンター業務の委託、アクセス解析などがこの「準委任」に該当します。

委任(準委任)に関する規定

従来、民法や商法などの法律には、再委託に関する一般的な規定はありませんでした。
(※ただし、一般産廃物処理など、特定の事業などに対して法律で再委託を禁止しているものは存在しますのでご注意ください。また、個人情報のように、第三者に提供する場合には本人の同意が必要といった義務が存在する場合もあります。)

しかし、2020年4月1日から施行された民法によって、委任契約と準委任契約において再委託(=復受任者の選任)に関する規定が新設され、「委任者の許諾を得た場合」または「やむを得ない事由がある場合」に限り再委託が可能であることが規定されました(民法第644条の2第1項)。つまり、これらの場合に該当しない場合は、再委託することができないということになります。

なお、請負契約については、仕事の完成が目的であり、極論を言えば誰が仕事を完成させても良いという解釈もできるため、再委託に関する規定はなく、委託者の許諾なく再委託することは可能であると考えられます。

ただ、請負と準委任を明確に区別することが難しい場合もあるため、「これは請負だから無断で再委託できる」と安易に判断しないほうが良いと思います。

委託側にはデメリットも

そもそも再委託とは、受託側にとってメリットのある行為です。

すべての業務を自社だけで行うのではなく、業務の効率化やコストの削減などの理由により、受託した業務の一部を第三者に行ってもらう必要が生じることは珍しくありません。

しかし、どのような場合であっても再委託可能であるとすると、委託側にとっては問題が生じるおそれはあります。

例えば製品の製造委託であれば、その製造にかかるノウハウなどが再委託により第三者に流出するかもしれません。
コンサルティング業務であれば、そのコンサルタントを信頼して委託しているのに、勝手に見ず知らずの第三者に委託されてしまっては本来の目的を達成できないかもしれません。

そのため、再委託の可否については有耶無耶にせず、契約書においてはっきり規定することが望ましいですし、先述のとおり委任(準委任)契約においては再委託できる場合が限定されていますので、委任者(=委託側)の許諾を得たことをなどを立証できるよう、契約書への記載が重要となってきます。

再委託に条件を付ける

契約書で再委託に関する条項を設けるとしても、それは単純に「再委託可能/再委託不可」とするだけではありません。

一律禁止するということであれば

第○条 (再委託)
乙(受託側)は、本件業務に係る各個別業務の全部または一部を、第三者に再委託することはできない。

のように定めることも考えられますが、しかし受託側にとってやむを得ない理由により再委託が必要となってしまった場合、そしてそれを委託側が許しても特段問題が無いような場合には、このような”一律再委託禁止”は委託側にとってもデメリットが生じるおそれがあります。

そこで、原則再委託禁止するにしても、例外を設けるパターンは考えられます。

第○条 (再委託)
乙は、本件業務に係る各個別業務の全部または一部を、第三者に再委託することはできない。ただし、甲乙の協議の上、甲(委託側)が書面にて再委託を許可した場合はこの限りでは無い。

この場合は、委託側が書面にて許諾すれば、受託側は再委託できるという形になりますので、融通は効くのでは無いでしょうか。

また、原則再委託可能とする場合であっても、無条件とするのではなく、例えば

  • やむを得ないと判断した場合に限る
  • 事前に委託側の同意を得なければならない
  • 再委託先に対してもこの契約を遵守させる

などの条件を追加することは一般的です。

個人情報管理の再委託

この記事の冒頭で挙げたニュースは個人情報の管理に関するものですが、個人情報の管理については「個人情報保護法」において再委託に関する規定があります。

個人情報保護法(以下「法」といいます)22条において、個人情報取扱事業者は、個人データの取扱の全部または一部を委託する場合は、その委託先について必要かつ適切な監督を行わなければならない、とされています。
このように、委託先の監督責任は課されますが、委託すること自体は禁止されていません。

なお、委託した内容である「個人データの入力業務」ですが、法23条で、データ入力業務の委託など”個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内において”提供される場合は、その提供先は第三者に該当しない、とされています。
つまり、第三者に該当しない、ということは、業務委託において本人の同意であったり第三者提供に関するオプトアウトを行う必要が無い、ということになります。

また、委託先からの再委託についても、委託元が再委託先に対しても先述の監督義務を果たすことで可能であるとされています。

(2020/06/09 改正民法にあわせて更新しました)


《広告》