ビジネスの現場で取り交わされる契約書は、双方の協議によって内容を決定し、その内容を元に作成することが一般的です。しかし、時には相手方から「この内容で契約してください」「サインだけください」といった”変更不可の契約書“が提示される場合もあり、どのように対応すべきか悩む方も多いのではないでしょうか。
この記事では、このような変更できない契約書が提示されたときに取るべき対応方法について、特に契約手続きの初心者に向けて解説します。
「変更できない契約書」はどのようなものか
まず、「変更できない」とされる契約書の意味を理解することが重要です。
「変更できない契約書」は、相手方のビジネス方針やリスク管理の観点から、相手方にとっての一般的な取引において使用される標準契約書やひな形である場合が多いです。
特に大企業やITサービスプロバイダなどでは、標準化された契約を提示し、柔軟な変更には応じないケースが一般的です。
また、特定分野を先導するような企業との間の契約など、契約上の力関係に大きな差があるような場合でも、力の強い側から提示される契約書は事実上変更できない場合も少なくありません。
では、なぜ変更ができないのでしょうか。
相手方が契約内容の変更を受け入れない理由には以下のような理由が考えられます。
(1)他の取引先にも同様の契約内容を適用しているため、一部の取引先だけ内容を変更すると公平性が失われる。
(2)自社のリスク管理を徹底するため、すべての契約を統一した内容にしている。
(3)取引相手が多いため、個別に調整する手間やコストを避けたい。
このような理由から、相手方が契約書を「変更不可」とするケースは珍しくありません。
しかし、だからといって提示された契約書をそのまま受け入れて良いものなのかどうかは慎重に判断する必要があります。
契約書の内容を理解し、リスクを見極める
変更できない契約書だからこそ、特に注意して確認しなければならない点があります。
それが「こちらが負う可能性のあるリスクを見極めること」です。
一般的に、リスクになり得るのは次のような点です。
- 損害賠償責任:相手方の過失が原因で損害が発生した場合に、こちらがどの程度責任を負うのかを確認します。
- 契約の解除条件:契約を解除できる条件やその手続きを確認します。こちらにとって不利な条件がないかをチェックすることが大切です。
- 知的財産権の取り扱い:製品やサービスに関する著作権や特許権などの知的財産権の扱いがどうなっているかを確認します。
- 個人情報の取り扱い:データの取扱いに関する契約の場合、取り扱うデータに個人情報が含まれていないか、含まれている場合はその取扱いに法的に問題がないかを確認します。
変更できない契約書であっても、そのまま署名することは避け、上記のような点を中心に慎重にリスクを評価することが大切です。
リスクがわかれば、それを受け入れるという選択もできますし、そのリスクに対応するための対応、例えば保険加入や社内体制変更などを行うことで、仮にそのリスクが顕在化した場合であっても被害を最小限に抑えることもできます。
交渉の余地を探る
また、相手方から変更できない旨が伝えられたとしても、一切の交渉の余地がないとは限りません。
例えば、契約全体の修正を求めるのではなく、特に懸念がある一部の条項だけについて修正を依頼することで、相手方も対応しやすくなる可能性があります。
また、ビジネス面での譲歩を提案することで交渉の余地が生まれる場合もあります。長期的な取引を約束することで、契約条件の一部変更を受け入れてもらうような提案がその一例です。
いずれの場合であっても、交渉を行う際には、相手方がなぜ変更を拒んでいるのか、その理由を理解し、納得できる形で交渉を進めることが大切です。
専門家のアドバイスを受ける
契約書の内容が複雑であったり、リスクが大きいと感じたりする場合は、専門家の意見を求めることも有益です。
弁護士や行政書士などの契約や法律に詳しい専門家に相談することで、社内で検討しただけでは発見できないようなリスクを理解し、適切な対応方法を見つけやすくなります。
契約しない、という決断も
すべての検討や交渉を経ても、どうしても納得できない内容や大きなリスクがある場合は、契約を受け入れるか見送るかの判断が必要になります。
契約条件に妥協してリスクを負う場合と、取引を諦める場合のメリット・デメリットを比較し、慎重に最善の選択をすることが重要です。
契約書を提示されたら契約しなければならない、ということはありません。
納得できない内容の契約であり、妥協することもできないのであれば、取引を諦めて契約を締結しない、という勇気をもった決断も時には必要です。
まとめ
相手方から提示された契約書が変更できない場合でも、そのまま書名するのではなく、焦らず冷静に対処することが大切です。
契約内容を理解し、リスクを見極め、交渉の余地を探ることで、より良い条件で契約を締結できる可能性があります。また、必要に応じて専門家のアドバイスを受け、「契約しない」という選択肢も含めた上で最善の選択を行うことを心がけることが大切です。