「制作」と「製作」、2種類の”せいさく”を使い分ける

ビジネス文書や契約書、あるいはメディア業界などで、「制作」と「製作」という似た言葉を目にすることがあるでしょう。どちらも「せいさく」と読みますが、その意味や使い方には明確な違いがあります。

「制作」とは

「作る」という行為に重きがあり、作品やコンテンツなど、比較的抽象的・創造的なものを生み出す場合に使われます。たとえば絵画や映像、文章、音楽など、クリエイティブな創作活動に関連して用いられることが多いです。

例えば、音楽を制作する、番組を制作する、など。

「製作」とは

こちらは「製造」などに使われる「製」の字が表すように、工業製品などの物理的なモノづくりに使われます。また、映画やドラマなどで資金を出したりプロジェクト全体を動かす役割を意味することもあります。

例えば、音楽制作機器を製作する、ノベルティグッズを製作する、など。

よくある使い分けの実例

上記のように言葉の意味を元に契約書などで使い分ける場合のほか、例えば次のような業界では契約書以外でも日常で使い分けを行っています。

映画・テレビ業界

  • 「制作会社」:番組や映画の実際の制作作業(撮影、編集、演出など)を行う会社。クリエイターやスタッフが集まって現場を動かす存在です。
  • 「製作委員会」:映画やアニメなどでよく使われる資金調達・権利管理の仕組み。出資者(テレビ局、出版社、広告代理店など)が集まって「製作委員会」という形でプロジェクトを支えます。

美術・デザインの分野

  • 「制作過程」:一つの作品ができあがるまでの創作過程。たとえば「絵画の制作過程を公開する」など。
  • 「製作工程」:製品やモックアップの製作に関する手順。たとえば「部品の製作工程を管理する」など。

著作権法における「製作」と「制作」

両者の違いが法的にも重要となる例として、著作権法があります。「制作」と「製作」の2つの言葉が使い分けられている法律としてとても参考になります。

著作権法では、映画などの著作物において「映画の製作者」という言葉が使われています(2条1項10号)。ここでの「製作」は、単に作品を「作る」という意味ではなく、「誰がその”映画”という商品を完成させるために資金や指揮を行ったか」というプロジェクト全体の責任者としての意味合いです。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
十 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。

つまり、映画の現場で実際にカメラを回したり編集をしたりする人(「制作」)ではなく、その作品を生み出すための「経営判断」を行ったり、映画という商品の製造行為(「製作」)を指しているわけです。

一方で、16条(映画の著作物の著作者)では「制作」という言葉が使われており、ここでは映像作品を生み出す、クリエイティブ作業を指しています。

(映画の著作物の著作者)
第十六条 映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。

このように、「制作」と「製作」は、現場と運営、表現と管理というような役割の違いが背景にあります。
法律用語においてもその使い分けが厳密になされており、契約書や業務分担などで誤って使うと、責任の所在を誤認させるおそれすらあります。

このように、「制作」と「製作」は、読みは同じでも意味は大きく異なります。特にビジネスや法律の現場では、その使い分けが信頼や正確性に直結するため、意識的に区別して使うことが大切です。

  • 作品や表現活動に関わる場合は 「制作」
  • 製品やプロジェクト管理に関わる場合は 「製作」

著作権法における「映画製作者」のような法的文脈では、さらにその意味が明確に定義されています。言葉の使い方ひとつで、責任の所在や役割の理解が大きく変わる場面も少なくありません。契約書などの作成の際には、この違いを意識してみてください。

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