新たなビジネスやサービスを始めるにあたって契約書を作成することは重要なのですが、その一方で「契約書を作成すること」が目的になってしまっていませんか?重要なのは契約書という書面の作成ではなく、「自社にとって不利益のない契約を結ぶ」ことなのです。
そこで「契約」と「契約書」の違いをわかりやすくお伝えし、さらに「契約書を作成することを目的にするのではなく、相手方としっかりと交渉を行い、内容を具体化することの重要性」についても解説します。
そもそも契約とは何か?
ウィキペディアの「契約」のページを見るといろいろ詳しく記載されていますが、簡単に言えば「契約」とは「約束ごと」です。
日本の法律では、約束する内容を示した上で「私たちの約束はこのような内容にしましょう」と相手方に伝え、その相手方がそれを承諾することで成立すると定められています(民法522条1項)。つまり、契約が成立するには「お互いの合意」が必要で、原則として契約書という書面がなくても口頭でも合意がとれているのであれば契約は成立します(ただし保証契約など、法律等により書面の作成が必要だと定められている場合を除きます。民法522条2項)。
たとえば、以下のような場面で「契約」が生じます:
・物を売買する:店頭で商品を買うのも契約です。お金を支払うことで商品を受け取り、その商品に対する権利を得る、これが「売買契約」です。
・美容院で髪を切る:美容院や理容院を利用する場合でも一般的に契約書を取り交わすことは無いと思いますが、美容院側の「髪を切る」業務の提供と、利用者側の「対価を支払う」という暗黙の合意が生まれています。これが「準委任契約」です。
このように、書面がない場合でも当事者が合意していれば契約は成立しますので、法的にそれに拘束されることになります。
契約書とは何か?
「契約書」とは、「契約の内容を書面にしたもの」で、その役割は契約の約束や条件を証拠として残すことにあります。
書面を作成することなく言葉だけで約束している場合、後から認識や解釈の違いによるものや、「言った・言わない」といったトラブルが生じやすくなりますが、契約書として内容を文書化することで記録に残り、将来的に確認しやすくなります。
また、ビジネスにおいて特に多いのが、契約締結時と担当者が変わっている場合です。
契約書がないと契約内容が後任者に正しく的確に伝わっているかがわかりませんが、契約書があれば契約内容を確認することができます。
交渉を通して契約内容を具体化する重要性
契約書を作成する際、よくある間違いとして「契約書を作ることを目的にしてしまう」ケースがあります。
これではテンプレートなどを少し編集して”契約書”というタイトルの文章が完成した時点で満足してしまうおそれがあります。
実際のところ、特にフリーランスにおいては契約書の作成に慣れていない場合もあることから、契約書というタイトルの文章を作成して相手方に提示した時点で目的を達成したと勘違いしてしまい、相手方から変更の要求が来たときにどうしたらよいか戸惑ってしまうことも予想されます。
契約には相手方がいることを忘れてはなりません。
契約書を作成すること自体が目的なのではなく、相手方としっかり交渉し、具体的な契約内容を双方が合意の上で決めていくことが非常に大切です。
では、なぜ交渉が重要なのでしょうか?
交渉をしっかり行うことで、お互いの期待や責任、条件について共通認識を持てるようになります。交渉を通じて、双方が納得する条件を確定させることで、契約に対する満足度や実行への意欲も高まります。また、トラブルが生じた場合にも「交渉で確認した内容がある」として、解決がスムーズになることが多いです。
なお、交渉において「契約書を正しく読む」ことも重要になります。こちらも記事もご参照ください。
契約と契約書を理解することで得られるメリット
「契約」と「契約書」を正しく理解し、交渉を経て内容を具体化することには、いくつかの重要なメリットがあります。
まず挙げられるのが「トラブルの防止」です。
しっかりと交渉した上で契約内容を具体化し、それを文書に残すことで、誤解やトラブルを防ぐことができます。
また、法的な安心感という側面もあります。契約書として文書化されていることで、契約内容の確認ができるため、紛争時にも有効な証拠となります。
さらに、ビジネスパートナーシップの強化も期待できます。相手方のいいなりになるだけでなく、お互いに満足度の高い条件で合意することで、長期的な信頼関係が築かれることも少なくありません。
まとめ:「契約は交渉から、契約書はその証拠」
今回の記事では、「契約」と「契約書」の違い、そして契約内容を交渉を通じて具体化し、それを契約書に反映させる重要性について解説しました。
まとめますと、契約は双方の合意に基づく約束であり、契約書はその合意内容を証拠として残すものです。言い換えれば、「契約」があって初めて「契約書」が完成するのです。
”契約書”というタイトルの文章を作ることが目的ではありませんので、まずはしっかりと相手方との交渉を行い、納得のいく契約内容を取り決めることが重要です。
その内容を契約書として書面に残すことで、後のトラブル防止や法的な安心感を得ることができます。