読むだけではダメ!フリーランスのための契約書チェックのススメ


ウェブデザイナーやイラストレータ-、カメラマン、ミュージシャンなど、フリーランスとして活躍されている方も多くいらっしゃいますが、依頼主などから提示された契約書を見て、悩んでしまうことも少なくありません。

そんな時、”契約書”についてネットで検索してみる方が多いかと思いますが、そのときによく目にするのが「フリーランスでも契約書を読みましょう」という言葉。

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ある意味当たり前のことですし、読むことは必要だと感じていると思いますが、ただ、読むだけで本当に良いのでしょうか?

「理解」は必須

もちろん読む”だけ”ではダメです。

しっかり読んで、しっかり理解する必要があります。
特にフリーランスであれば、自分を守れるのは基本的に自分しかいません。

多くの場合、契約書は、やや難しい表現や回りくどい感じで書かれていることが多く、読み慣れていないとただ読むだけで疲れてしまいます。

誰が「甲」で誰が「乙」なのか、それぞれどんな義務を課せられて、どんな権利があるのか。
ゆっくり読みながら、一文一文をしっかり理解していきましょう。
それだけで、意外なリスクに気がつくことも珍しくありません。

実際には「法律知識」も必要

しかし、実際にはしっかり読んでしっかり理解しただけでは足りません

そもそも契約書は何のために存在するのかを考えると、その理由の一つとして「当事者間の取り決めを文書化する」という点が挙げられます。
契約自由の原則」により、特にビジネスにおける取引(BtoB)においては基本的に契約内容が優先されますので、契約締結時に当事者同士で決めた内容や約束を文書という形で残しておくことはとても重要なのですが、では契約書に書かれていない事項についてはどのようになるのでしょうか?

実は様々な法律によって予め決まっている事項もあり、契約書に明示されていない場合は一般的には当事者間の協議となりますが、その中で法律で規定されている内容が要求されることが十分考えられます。

また、微妙な表現によって誤解が生まれる場合もあります。

つまり、契約内容を十分に理解するためには、民法や商法、消費者保護法、下請法などの法律に加え、過去の裁判例についての知識も必須といえます。

いくつか例を挙げてみます。

例1:契約書に「瑕疵担保期間」についての規定が無い場合

フリーランスのウェブデザイナーAさんが、ウェブ制作会社B社と結んだ業務委託契約に、瑕疵担保期間に関する条項が無かった場合。

瑕疵(かし)とは納品物におけるミスですが、一般的には契約において3ヶ月や6ヶ月といった期間が定められ、その期間内に発見された瑕疵は制作者が無償で補修対応することが多いです。
そういった納品後の対応が必要な旨が定められていないわけですから、これで「納品後は無償対応をやらなくて済む!」、と考えてしまうかもしれません。

しかし、契約による事前の合意が無ければ瑕疵担保期間が無くなるのではなく、法律(民法637条1項)の規定に則って「納品後1年間」となってしまいます。
一般的な契約書に定められている3ヶ月~6ヶ月と比べるとかなり長い期間となり、フリーランス側にとっては負担が増える可能性が高いです。

このように、契約書をよく読んだことで納品後の対応についての記載が無いことに気付いたとしても、瑕疵担保期間という規定が民法に存在することを知らないと、間違った解釈をしてしまう恐れがあります。

例2:突然契約解除されたが、契約書には解除に関する条項が無い場合

フリーランスのカメラマンCさんは、Dという団体から○月×日に開催される団体行事における写真撮影を依頼され、報酬額などが記された依頼書を受け取りました。
そのため、Cさんはこの日のスケジュールを空けておくことにしました。

しかし、前日になって突然Dから連絡があり、別のカメラマンに依頼することになったため依頼を解除すると言われてしまいました。

この場合、解除に関する契約が無いため、法律上はこのような契約解除でも有効となります。

団体DからカメラマンCへの依頼は法律上「準委任」という形になりますが、このような(準)委任契約はいつでも解除できる(民法651条1項)と定められているためです。

委任、準委任契約である場合は、上記の通りいつでも解除できることから、契約解除についても留意する必要があります。

※相手方に不利な時期に解除した場合は、やむを得ない事情であった場合を除き、相手方の損害を賠償しなければなりません。(民法651条2項)
この例のケースが”やむを得ない事情”であったかは争いがあると思いますが、少なくともトラブルの元となりますので、契約時にしっかり合意しておきたい点です。

例3:資本金1500万円の会社から請けた仕事の支払が末締め翌々月末払いだった場合

一見、何の問題も無いように思えませんか?
ちょっと支払日まで時間が空きますが、こういった支払いサイトはよくありますし、許容範囲ということで見逃しやすい規定かもしれません。

しかし、これは状況によっては違法(下請法2条の2に違反)となる場合があります。

資本金1000万円を超える法人から個人(フリーランス)への委託の場合、その代金は締め日ではなく納品日から60日以内に支払わなければなりません
そのため、例えば5月4日に納品完了し、5月31日付で請求した場合、契約書における支払日である7月31日では納品日(5月4日)から60日以上経過しておりますので、違法ということになります。

もしこのような契約書だった場合は、上記下請法の規定を根拠に交渉することは重要です。

このように、契約書を読んでそこに書かれていることだけを理解したとしても、実際には隠れたリスク、あるいは交渉すべき点が潜んでいることもあり得ます。

例4:損害賠償額の上限が設定されていたのにその上限額を超える賠償を請求される場合

フリーランスのエンジニアEさんが、通販サイトシステムの改修にあたり発注元であるF社と結んだ契約には、次のような条文がありました。

第○条(損害賠償)
甲(フリーランスEさん)が、本業務に関連し、乙(発注元F社)または乙の顧客その他第三者に損害を及ぼした場合は、甲は本業務に掛かる請負額を上限として当該損害を賠償する責任を負うものとする。

この作業の請負額が10万円であったため、Eさんは「万が一損害賠償が請求されても、最大で10万円払えばいいんだ」と考えていました。

しかし、Eさんの作業によって通販システムに瑕疵が生じ、顧客情報が流出。
F社は多額の損害を被ったため、Eさんに対して1000万円の損害賠償を請求してきました。

契約書を根拠に安心していたEさんは想定以上の高額賠償請求に驚きましたが、その瑕疵がEさんの故意または重過失であった場合、Eさんは契約書で定められた上限額(10万円)を超える額を支払う義務が課せられる可能性が高いです。

このように、たとえ契約書で損害賠償額の上限が定められていたとしても、それ以上の賠償責任が生じる場合があることは知っておく必要があります。

リーガルチェックは重要です

いくつか例を挙げましたが、契約に関する業務に慣れていないと、「契約書に何が足りないのか」「何が違法となり得るのか」の判断が難しいです。

特に、立場が弱くなりがちなフリーランスにとって、契約内容は非常に重要となりますので、”読まない”のはもちろん、ただ”読んだ”だけでは理解が不十分であり、万が一のトラブル時に非常に不利な状況に置かれる危険もあります。

特に、契約がある程度長期間となりやすい「自動更新型の基本契約」の場合は、契約期間中ずっとその内容に拘束されることから、より一層の注意が求められます。

理解したつもりになるのではなく、リスクも含めて十分にその内容を知っておくようにしましょう。