直接契約書の話ではないのですが、契約書や利用規約を作成する上で留意しておきたい点であると感じたため、紹介してみたいと思います。
以前Twitterでつぎのような文章を見かけました。(※見かけた文章そのままではなく、後述のアイスクリーム課題を参考に作成しています。)
ある日の午前。ジョンとメアリーは公園にいます。
そして公園にはアイスクリーム屋さんの移動販売車も来ていました。
それを見つけたメアリーは、アイスクリームを買いたかったのですが、あいにくお金を持ってきていませんでした。
そのことをアイスクリーム屋さんに話したところ、アイスクリーム屋さんは午後も同じ公園にいるということを教えてくれたので、メアリーは家にお金を取りに戻りました。
その後アイスクリーム屋さんしばらく公園にいましたが、そろそろ移動して教会に行くことをジョンに伝えると、公園を出て行きました。
教会に向かう途中、アイスクリーム屋さんはメアリーの家の前を通ったので、これから教会に行くことをメアリーに伝えました。
しばらくして公園から自宅に戻ったジョンは、メアリーに聞きたいことがあったので、メアリーの家に行きましたがメアリーは留守でした。聞いたところ、アイスクリームを買いに出かけたようです。
そこで、ジョンはメアリーに会うためにメアリーを追いかけることにしました。
さて、ジョンは、メアリーがどこに行ったと思ったのでしょうか?
「ジョンはメアリーがどこへ行ったと思っているか?」という問いなのですが、どうやら正解は
「公園」
とされていますし、実際このツイートへのリプライなどを見ても「公園」と答えている方が多いようです。
ありがちな間違いとして「教会」という回答が挙げられ、これは『教会へ移動中のアイスクリーム屋さんとメアリーが会っていて、アイスクリーム屋さんが教会に行くことをメアリーが知っていること』をジョンは知らないため、と考えられます。
確かにその通りかもしれないと思う反面、どうしても腑に落ちないモヤモヤが残ります。
「公園」で正解なのでしょうか?
「公園」が正解の理由として、ジョンの立場・状況から考えると「アイスクリーム屋さんが教会に行ったことをメアリーも知っている、ということをジョンは知らない」のだから、アイスクリーム屋さんは午後も同じ公園にいるということなので、ジョンは「メアリーは(アイスクリーム屋がいる)公園に行った」と思っている、ということのようです。
しかし、本当にそうでしょうか?
そこで気付いたのが、先述の文章には、この正解を導き出すための重要な前提条件が抜けていることです。
それが、3段落前で太字にした「アイスクリーム屋さんは午後も同じ公園にいる」という箇所です。
実は、先述の文章では、ジョンがこの事実を知っていたことを示す箇所がありません。
つまり、「アイスクリーム屋さんは午後も同じ公園にいる」ことをジョンが知っているとは限らないのです。
だから、ジョンとしては、アイスクリーム屋さんが教会に移動した後(※ここまではジョンが知っている)、そのまま教会にいるのか、他の場所に移動しているのか、あるいは公園に戻ってきているのかを知りませんので、メアリーがアイスクリームを買いに行ったと聞いたとしても、そのアイスクリーム屋さんがどこにいるのかを知らず特定ができないはずなのです。
そのため、上記の文章からは、メアリーの居場所についてジョンは知ることはできないため回答者としても場所を特定できない、つまり「回答不能」としか答えられないのではないでしょうか。
さらに、もっと細かい点を検討すると、そもそもジョンとメアリーが一緒に遊んでいたかどうかも不明ですし、公園にアイスクリーム屋さんが来ていたことをジョンが知っていたのかどうかも不明です。
また、仮に「アイスクリーム屋さんは午後にまた公園に戻ってくる」ことをジョンが知っていたとしても、ジョンがメアリーを追いかけた時間帯が(アイスクリーム屋さんが公園に戻る)午後なのかどうかもわかりませんし、メアリーが買いに行ったアイスは、公園に来ていたアイスクリーム販売車ではなく、近所のアイスクリーム屋さんだったのかもしれない、、、というように、状況の選択肢は複数存在すると思います。
このように、様々な前提条件が欠けているのですから、本来であれば答えることができない問題なのではないでしょうか。
それなのに「公園」と答えた方は、無意識のうちにこれらの前提条件を補完していたのかもしれません。
本物はしっかり前提条件が示されている
なお、この文章の基となっているのは、子どもの心理的発達などを計る課題だそうで、ハインツ・ウィマーとジョゼフ・パーナーの両氏が開発して1985年に発表した、一般的に「アイスクリーム課題」と呼ばれているものだそうです。
そして、この「アイスクリーム課題」の正答は「公園」とされています。
そのため、これを知っている人からすれば、先述の文章をしっかり読むまでもなく「公園」と回答したのかもしれません。
しかし、この本物の「アイスクリーム課題」のほうは、先述の欠けているとした「アイスクリーム屋さんが午後にまた公園に来ることをジョンも知っていた」ことが示されています。
そのことを先述の文章に補った場合、4段落目が
そのことをアイスクリーム屋さんに話したところ、アイスクリーム屋さんは午後も同じ公園にいるということを二人に教えてくれたので、メアリーは家にお金を取りに戻りました。
このような感じに変更されます。
この「二人に」というたった3文字の前提条件が追加されるだけで、「メアリーはアイスを買いに公園に行く」とジョンが考えた、ということが自然に導き出すことができると思います。
(さらにジョンとメアリーが一緒にアイスを買いにいった可能性も高くなり、その情景も思い起こされます。)
条件記述の重要性
このように、文章からは断定・特定できないはずなのに、無意識のうちに決めつけてしまっていることは少なからずあると思います。
しかし、前提条件がない、あるいは曖昧であると、受け取った側の”勝手な判断”が生まれる余地ができてしまいます。
そして、この”勝手な判断”が、後に大きなトラブルになってしまうかもしれません。
契約書や利用規約作成する際は、こういった曖昧な点が無いように、様々な角度から考え、時には疑ってみることも必要なのではないかと考えています。
「三人寄れば文殊の知恵」ということわざもありますが、逆にいうと一人で考えているときはこのような点に気が付きにくいため、専門家と一緒に作成することもお勧めです。
また、契約書を提示した相手方から修正して戻ってくる際に、たとえ数文字でも意図的に削られてしまったことで条項の解釈が変わってしまった、ということも起こりえます。
わずか数文字でも、それが重要な前提条件になっていることも十分考えられます。
何通りもの解釈ができるような曖昧な文章にならないようにするとともに、読み手としても勝手な思い込みで解釈しないよう、特に留意していきたいですね。