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しっかりと定義しておきたい「商用利用」

契約書、利用規約だけでなく、ウェブサイトや街中の施設などの各種サービスなどに至るまで、様々なところで目にする機会のある「商用利用OK」「商用利用禁止」というルール。

それでは、どのような利用方法が「商用利用」に該当し、どのような利用方法がOKまたはNGなのでしょうか?

結論:サービスに依る

いきなり結論を書いてしまうと、何が商用利用なのかはそのサービスであったり運営者、提供者による定義や考え方に依存し、統一されたルールはありません

つまり、同じ「商用利用NG」というルールが存在するサービスでも、○○というサービスではNGである行為が、△△というサービスでは問題無いという場合もあります。

これでは、利用する側としては判断に困るばかりか、運営側にとっても利用者とのトラブルに発展するおそれがあり、双方にとってメリットはありません。

よって、特に契約書や利用規約で「商用利用」という言葉を使うのであれば、何が商用利用なのかをしっかり特定できるように定義することが望ましいと考えられます。

商用利用=営利目的での利用?

統一されたルールはない、と記しましたが、ただネット検索などをしていると「商用利用とは営利目的で利用する行為」と考えている方が多い印象を受けます。

確かに、”商用”とは”商い(あきない)”のために”用いる”と書きますし、商いをする人の多くは利益を上げるために行っていると思いますので、営利目的での利用が商用利用である、と考えることは自然です。

そこで、”商用”の意味を国語辞典で調べてみますと、

商売上の用事。商売上に使うこと。「―で出掛ける」 

(広辞苑第七版より)

①商売上の用事。
②商売上に用いること。
「━文」

(明鏡国語辞典第二版より)

このように日本語の意味としては「商売上に使う」ことが定義されています。

では、「商売」とは何でしょうか。
こちらも辞書で調べると、「あきない、職業、仕事」という意味であることがわかります。
つまり、職業上での利用が商用利用である、と考えることができそうです。

ところで、「営利」とは何でしょうか。
こちらも調べてみました。

経済的な利益を得るために活動すること

(明鏡国語辞典第二版より)

財産上の利益を目的として、活動すること。かねもうけ。

(広辞苑第七版より)

”営”は「いとなむ」ですから活動であり、”利”は利益だと考えると、上記の意味のとおり「営利」とは利益を得るための活動ということになります。

そうなりますと、「商用」とは商売に使うことであるため職業や仕事上で使うという意味であることに対し、「営利」とは利益を上げるための活動であるため、職業や仕事には限定されずにもう少し広い概念であると考えられます。

つまり、「商用」と「営利」は若干意味が異なる言葉であることがわかりますので、単純に「商用利用」と「営利目的利用」はイコールであるとは言えない可能性もでてきます。

営利とは間接的に営利に結びつく場合も含めるか?

若干意味が異なるといっても、いわゆるボランティア活動とは異なり、商売ということは金銭のやりとりが発生するのが通常であり、商売と営利はイコールであるという考えはできるのかもしれません。

それでは、金銭のやりとりに関係があるのか無いのか判別が難しい場合はどうでしょうか。

例えば、「商用利用禁止」という利用規約が存在するイラスト配布サイトから入手したイラストを八百屋さんの店舗内に掲示する場合を考えてみます。
この場合、八百屋さんにとってイラストは商品ではないため、このイラストに対して金銭のやりとりは発生しません。
あくまで、店先に貼られているだけですし、このイラストを見ないと入店できないというルールがあるわけでもありません。(※多くの人の目に入るとしても、イラストの存在に気が付かなかった人であっても客になります)
よって、イラストが直接的に利益をもたらしているわけではないため、この利用は「営利目的での利用」ではない、つまり商用利用ではないとして配布サイトの利用規約には違反しない、と考えられることもできます。

しかし、異なる解釈も存在し得ます。

例えば、著作権法には「営利を目的とせず」、観客などから料金を徴収せず、なおかつ実演する者に報酬を支払わない場合は、著作権者の許諾がなくても上演、演奏、上映、口述ができるという条文があります(38条1項)。
この場合の「営利を目的」には、会社などの営利目的で事業を行う団体による利用全般が該当すると考えられ(*1)、例えば来客用館内BGMは直接的に利益を生むものではありませんが、会社の雰囲気作りや来館者へのもてなしによる好印象の獲得から間接的に利益に繋がるという場合も含めて「利益を生むために利用している」と解釈することができそうです。

つまり、この解釈によれば、八百屋さんの店舗に掲示したイラストも、客を呼び込むためのツールのひとつと考えると、間接的に利益に供しているといえます。
よって、商用利用であり、配布サイトの利用規約に違反している、という判断ができる余地が生まれます。

あいまいな言葉はしっかり定義しよう

このように、単に「商用利用」といっても、実はその範囲は決して明確ではありません。

だからこそ、契約書や利用規約などで「商用利用」という言葉を使うのであれば、どのような利用方法が該当するのかを明確に定義することが重要になってきます。

先述のような間接的にでも利益に繋がる利用が含まれるのか否かを明示したり、あるいは具体的な例を列挙するという方法でもわかりやすいかもしれません。

解釈があいまいになりそうな規定はトラブルの種になりますので、特に気を付けておきたいですね。

*1: 加戸守行『著作権法逐条講義[七訂新版]』 (著作権情報センター,2021年)344頁

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