違約金の支払い義務?!中途解約におけるトラブル事例


契約書とは、ビジネスや取引に際して当事者間で合意した内容を記した文書です。
つまり、契約書に書いていないことは「合意していない」ことになりますので、一般的にはその都度協議することになります。

それを見越してか、多くの契約書やその雛形において、いわゆる”誠実協議条項”が規定されています。

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第○条
本契約に定めのない事項および本契約の内容の解釈に相違がある場合は、甲乙間で誠実に協議の上、これを解決するものとする。

こういった条項の存在意義については様々な意見がありますが、今回取り上げるのはこの点ではなく、合意が無いことにより協議しなければならなくなることについてです。

合意があれば・・・

契約を結ぶときは、合理的な範囲で、できるだけ多くの点について当事者間で合意しておく、という考えが重要だと言えます。
予め合意しておき、それを契約書という形で残しておくことで、その事態が発生した場合に合意内容に従って対処することができるためです。

つまり、場合によってはわざわざ協議する必要が無くなる、ということです。

○○した場合は△△する、ということに合意していれば、○○になったときは当然に△△すればよく、条文の内容がしっかりしていれば△△することに異議はない、あるいは文句を言えない、ということになります。

(※”条文の内容がしっかりしていれば”というのは、仮に曖昧な表現等であった場合には解釈の違いが生じ、協議が必要となる場合が想定されるためです。)

合意がないため協議となる

本日7月29日のニュースで、千葉マリンスタジアムの命名権(ネーミングライツ)について、契約期間中での解約に関して千葉市が相手方企業に対して違約金を請求する方針を表明した、というものがあります。

<マリン命名権解除>千葉市、違約金請求へ QVC「合理的根拠あれば…」 (Yahoo!ニュースより)

記事によると、

途中解除に関する違約金など具体的な契約条項はなく、同社が6月、「一定の成果を上げられた」などとして契約解除を市へ求めたため、球団を含めた3者で8月から本格的な協議を始めることになった。

とのことですので、違約金について具体的な契約条項、つまり当事者間の合意が無い契約内容であったようです。

契約期間は2020年11月30日までということですが、その契約期間中に何らかの事由により契約解除が必要となることは十分想定できます。そして、球場という重要な施設の名称となりますので、契約解除となった場合に、道路標識や各種印刷物など影響する範囲が広く、その対処に費やす費用も少なくないということも十分想定可能ではないでしょうか。

しかし、違約金についての条項が無いため、そもそもの請求の可否やその金額等について、今後の協議となるようです。

QVC側は「合理的根拠があれば対応していく」とコメントされていますが、逆に考えれば、合理的根拠が無ければ対応しない、支払わないという意味にもとれます。
解約時には違約金を支払う、という契約内容ではないため、違約金を支払わないという選択肢を持っていることからこのようなコメントになったものと推測されます。

このように、違約金についての条項がなかったことにより、支払って欲しい千葉市側と、支払いたくない(と推測される)QVC側という、利害関係が反するもの同士での協議を余儀なくされました。
(※仮に違約金についての条項が存在した場合でも、その内容によっては協議が必要となる場合があります。)

なぜ違約金についての条項を設けなかったのか?

一般的には、安易に中途解約されることを防ぐ意味でも、また解約に際して要する支出を補うためにも、解約には一定の金銭の支払いを要する規定を設けることは少なくありません。
その名称は「違約金」であったり「損害賠償金」であったり様々ですが、本質は同じものとなります。(民法420条3項)

通常容易に想定されると考えられるこの違約金について、なぜこの契約において取り決めなかったのか。

契約の当事者ではないため真相はわかりませんが、一般的には次の理由が考えられます。

  1. 忘れていた
  2. 合意できなかった

1.については「えっ?」と思うかもしれませんが、命名権については「どの期間、いくらで?」が重要であるため、命名または解除したことにより生ずる周りへの影響についてまでは十分に議論されていない可能性はあります。
その他の一般的な契約においても、契約のキモとなる重要な点以外は、あまり注意深く議論せず、さらっと決めてしまっていることもあります。

2.についてもよくあることで、契約解除における違約金とは、当事者間で完全に利害が反するものであるため、「払ってほしい」「いや払う必要はない」という意見の衝突から、結局合意できずに契約条項に記さないことになった、というものです。

解約のことも念頭に置く

今回の件は、今後どのような協議となるのかはわかりません。

ただ、契約書において違約金ことさえ書いておけば「違約金を支払わない」という選択肢は存在しないことになります。
「払う」「払わない」の相反する立場で始まっては、その協議が長引く可能性もあります。
そして、協議が長引けば、本業への影響も少なからず生じるのではないでしょうか。

一般企業においても、「中途解約」および「違約金の要否」については、契約を結ぶ際に留意しておいて損の無い点ではないかと思います。


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