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婚前契約書は公正証書にしないと効力がないってホント?

弊所でも婚前契約書作成の相談をいただいた際にこのようなことをよく訪ねられますので、気になっている方も少なくないようです。

そこで、まずは先に結論を示しておくと、
公正証書ではない私文書としての婚前契約書であっても、効力がないということはありません。それよりも内容が大切です。
ということになります。

ではその理由を考えていきます。

公正証書ではない契約のほうが多い

婚前契約書ではない、日常で交わされる契約書を思い浮かべてみて下さい。

部屋を借りるときに交わす賃貸借契約書、企業に雇用される際に交わす雇用契約書、スマホを分割で購入する際に交わす割賦販売契約(※これは「約款」という形の文書が多いと思いますが契約であることには変わりありません)などは多くの方が経験あると思いますし、仕事によってはクライアントなどと業務委託契約書を交わす場合も多いと思います。
でも、これらは一般的には公正証書ではありません。

不動産屋さんや一般企業などの公証人ではない者が作成して当事者同士でハンコ押して交わす、一般的な「私文書」としての契約書です。

では、これらの契約書が、公正証書ではないからという理由で効力がないと考えられるでしょうか?

・・・もちろん、そんなことはありません。
そもそも契約というのは「契約の内容を示してその締結を申込んで、それを相手方が承諾したときに成立する」のが原則です。(民法522条1項)
さらに(法律に特別の定めがある場合を除いて)”契約書”のような書面を作成しなければならないものでもありません(民法522条2項)ので、口約束であっても契約です。

そして、その契約というルールに違反した場合は債務不履行責任(民法415条)などを負う可能性がでてくることになりますので、契約は効力(法的効力)を持っていることになります。
これは婚前契約であっても同様です。

このように、公正証書ではない私文書だからといって効力が無いわけではなく、契約に違反したような場合は法律に定められた責任を負うことになります。

公正証書とするメリットはあるのか?

そうは言っても、やはり公正証書にしたい、という考えはあるかもしれません。

公正証書は公証人といういわば法律のプロが作成する文書であるため、法的に無効であると判断されるおそれは限りなくゼロに近いものであり、法律をよく知らない者が作る私文書よりも価値が高いと考えることは自然ですし、著名な方が「婚前契約書を公正証書で作成した」と話していることも”公正証書のほうが優位である説”を後押ししているのかもしれません。

一般的に、契約書を公正証書として作成する理由は以下の3点が主なものであると考えられます。(※公正証書遺言など、契約書ではないものは除きます。)
(1)法律などにより義務とされている場合
(2)証拠としての価値を高めたい場合
(3)債務名義としての効力を得たい場合

まず(1)については、任意後見契約や事業用の根保証契約などについては法律により公正証書でしなければならない規定となっていますので、必ず公正証書で契約書を作成する必要があります。

(2)については、法律のプロである公証人が作成する文書ということで、法律に違反したり法的に誤った内容となることがなく、裁判においても証拠として重視されることはあるようです。

最後に(3)については、契約の内容に従った行為を強制的に行って貰う手続きである「強制執行」を行うために必要となる「債務名義」という文書としての効力を得たい場合です。
債務名義は基本的には裁判によって確定した判決やそれと同等のものが利用されますが、以下の条件を満たす公正証書であれば、裁判という手続きを経なくても強制執行をすることができる権利を手に入れることができます。
・契約内容が一定の金銭や有価証券を受け取ることが目的の請求であること
・すぐに強制執行をすることができる旨の記載が存在する

そのため、金銭消費貸借契約(いわゆる借金)や慰謝料、養育費の支払い契約において利用する場合が多いです。

では、これらの理由が婚前契約書の場合でもメリットがあるのかを考えてみます。

まず、婚前契約書の作成を義務付けている法律はありませんので、(1)は理由になりません。

(2)については、確かに期待できるメリットだと思いますが、夫婦二人だけで作るのではなく、弁護士や行政書士などに依頼することで法的に問題のある文書とはなりにくいですし、公証人の業務の一つである「私署証書認証」という手続きによっても契約成立を担保することができますので、公正証書でなければならない理由としては弱いのではと思います。

そしてよく誤解されるのが(3)で、例えば「浮気したら300万円支払うという内容の婚前契約公正証書を作れば、確実に300万円支払ってもらえる」という目的で公正証書を望む方もいらっしゃいます。

しかし、先述の借金や慰謝料などの契約とは異なり、あくまで”将来浮気が発生したら”という仮定の条件が前提であり、婚前契約作成時点では浮気という事実が発生していないため、300万円を受け取る権利(債権)も300万円を支払う義務(債務)も発生していません。
このような現実に発生していない債権債務に対して強制執行を許す文言(強制執行認諾条項)を与える公証人はおそらくいらっしゃらないのではないでしょうか。

さらに付け加えると、公正証書として作成した婚前契約書の内容を変更する場合は、原則としてまた公正証書を作らなければなりません。
夫婦生活を続ける上で契約内容の微調整が必要となる場合は十分想定できますので、少しでも変更するたびに時間とお金をかけて公正証書を作る必要があるというのはメリットとは考えにくいのではないでしょうか。

よって、婚前契約を公正証書にするメリットはほとんどないと考えられます。

※これらを踏まえた上で、メリットの有無ということではなく、例えば夫婦間の決意という意味で公正証書にするという考えはあると思います。

そもそも公正証書を作成してくれない場合も

婚前契約の公正証書作成において、もう1点無視できない問題というのが、そもそも公証人が引き受けない場合も少なくない、という点です。

そもそも公正証書とは私人間の法律行為に関して、私的な法律紛争を未然に防ぎ、法律関係を明確にすることを目的として、公証人が一定の事実を記載して作成することにより証明する公文書です。

しかし、婚前契約書では、例えば「記念日にはデートする」とか「異性と二人きりで会ってはいけない」とか「夫の小遣いは月3万円とする」といった内容を定める場合はとても多いのですが、これらはすべて法律行為ではなく法律に規定があるものではありません

これにより、婚前契約は公正証書としての作成になじまないため、作成に消極的な公証人は多い印象がありますし、上記のような法的根拠の乏しい規定を削除するよう求められるかもしれません。

※公正証書作成の可否は公証人の判断に依存しますので、すべての公証人が消極的であるわけではありません。

公正証書にこだわらないようにしよう

このように、法律面でも夫婦での運用の面においても、婚前契約を公正証書とするメリットはほとんどないばかりか、そもそも公正証書にできるとも限りません。

そのため、なんとなく公正証書の作成にこだわるのではなく、「記念日にはデートをする」といった”法的には何の根拠も担保もないが夫婦にとって重要な約束”を、夫婦でしっかり話し合った上で弁護士や行政書士などの専門的な第三者を交えて文書として作成することこそが、婚前契約の重要な役割の一つであると考えます。

そして、契約の内容ではなく契約の成立について証拠能力を上げたいという場合には、作成した婚前契約書を公証役場で私署証書認証してもらうという選択肢も検討できるのではないでしょうか。

もちろん、上記を理解した上で、それでも公正証書にしたいという明確な目的があるのであれば、ぜひ公正証書として作成いただければと思います

※ 基本的に法的根拠のない内容の婚前契約書を作成することはできますが、法令や公序良俗に反する内容の場合は無効となってしまいますのでご注意ください。

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