著作物の「使用」と「利用」を使い分ける

ライセンス契約や、ホームページやイラストなどの作成に関する請負契約などにおいて、契約の対象または契約にかかる著作物を使うことについての規定を設けている場合は多いと思います。

その中で、著作物を”使うこと”を「利用」と表記するか「使用」と表記するか、迷ったことはありませんか?
あるいは、契約の相手方から届いた契約書において「使用」と「利用」が混在していたら、「どちらかに統一して!」と思うかもしれません。

しかし、実はこの「使用」と「利用」は意図して使い分けている場合があるのです。

著作物の「使用」

著作物の「使用」とは、主に有体物のみを使う場合、有体物的に使う場合に用いられます。

ちなみに、「有体物」とは、民法において権利の対象となるもののことで、たとえば所有権の対象となるものは有体物である必要があります。

簡単に言えば、気体、固体、液体などのように、目に見えて、持ったり触ったりすることができる、形があるもの、物体といった感じでしょうか。
また、目に見えず触ることもできませんが「電気」なども有体物として扱われます。

例えば、著作権法30条1項では次のように規定されています。

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

ここでの「使用」とは、書籍を読んだり、CDの音楽を聴くといった行為に使うことを指しており、この書籍やCDは有体物です。
その有体物を複製して別の有体物を作ることができるとしているので、複製行為は有体物のみを対象としているものと考えられます。

また、「モノ(物)」ではないデジタルデータ、例えば電子書籍やネット配信音源であっても、それらを使うときはその著作物が「モノ(物)」であるかどうかに大きな差異はなく、紙の書籍でも、タブレット等で読む電子書籍であっても、有体物と同様にその著作物の内容を感じ取ることが目的であり、モノかデータかの区別なく”有体物的に”使うかと思います。

このように有体物を”使う”ことを「使用」と表現しています。

著作物の「利用」

先述の「使用」に対して、「利用」とは、有体物に限らず無体物の利用も想定される場合に使われます。
無体物も含めたことにより、「使用」よりも対象範囲が範囲が広くなっています。

実際、著作権法では「使用」よりも「利用」と規定している箇所の方がずっと多いです。

(検討の過程における利用)
第三十条の三 著作権者の許諾を得て、又は第六十七条第一項、第六十八条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は、これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得、又は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、当該著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

なお、無体物とは、有体物ではないもの全般であり、著作権などの権利や光、熱といった、形として存在しないものが該当します。

著作物の「利用」であっても「使用」ではない使い方としては、公衆送信や公の伝達が挙げられます。

このように、物であるか否かにかかわらず、あらゆる使い方に関する場合に「利用」と表現しています。

「利用」=支分権に該当、「使用」=それ以外、という考えは?

使用と利用の使い分けについて、有体物だけなのか、無体物も含むのか、といった点で区別すると書いてきましたが、実は以下のように区別される場合もあります。

「利用」とは、著作権法で規定される支分権に該当する利用行為で、複製や公衆送信、演奏、上演、展示、貸与などを指すもの。

「使用」とは、支分権に該当しない利用行為、つまり本を読む、音楽を聴く、映画を見る、プログラムを実行するといった行為を指すもの。

これはかつて文化庁の著作権審議会でもこのように用いられており、また弁護士や学者のブログにおいてもそのように解説されていることが多いです。

著作権審議会 マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)中間まとめ(コピープロテクション等技術的保護手段の回避について)(平成10年2月20日)

しかし、著作権情報センター(CRIC)が発行する「コピライト」No.692(2018年12月発行)41頁 において、平成30年の著作権法改正に関する文化庁著作権課による解説では、今回の改正により現行の著作権法35条1項「その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には」という規定中の「使用」を「利用」に変更することについて、

  • 現行法では「使用」は有体物のみの利用を想定して用いられている
  • 無体物の利用も想定される場合は「利用」が用いられている
  • 平成30年の改正により複製だけでなく公衆送信や公の伝達も権利制限の対象となるため「利用」に改めることにした

このように説明していることから、文化庁著作権課では「使用=有体物のみ、利用=無体物も含む」と考えており、それが改正法の35条1項に反映されたことになります。

著作権法の条文の原案を作成する機関がこのように考えているということですので、今後は「使用=有体物のみ、利用=無体物も含む」という解釈になる可能性が高いのではないでしょうか。